2020.02.04 mon

川上未映子「優しい占いはお好き?」コラムvol.4

これを読んでくれているあなたは、占いに興味がありますか? あるいは信じるほうですか? たぶん、ほとんどの人がイエスと答えるような気がする。というのは、女性誌で占いを特集すると必ずや完売するというセオリーがあり、興味や信心にムラはあっても、まあ、ちょっとはやっぱり気になるね、というの実際のところなのかもしれない。

わたしは長いあいだ、そういったものとは無縁でやってきた。というか、やはり理性的に捉えるとそれらの世界観には根本的に無理があるんじゃないかと思ったし、また「運を引き寄せる」みたいなことに一抹のさもしさのようなものを感じてしまって、どうにも好きになれなかったのだ。

そう、未来や過去に向き合うときに必要なのは、経験と知性、そして思いやりであると疑わない。それは今でも変わらないのだけれど、このあいだ、「ああ、でも占い全般に左右されてしまう気持ちもわかるよな」としみじみするようなことがあったのだ。

ある雑誌の巻末の占いがふと目に入り、自分の星座の部分を読んでみた。これまでは「ふわっと抽象的だなあ」とか「どの星座を読んでもどれでも当てはまるよなあ」なんて感じていたけれど、その占いの、そう、文体が──なんだか異様だったのだ。物言いは自信に満ち、起こるであろう詳細がわりと具体的な日時とともに書かれてあり、占いというよりは予言に近い雰囲気があった。そして、やっぱりポジティブなことよりも、ネガティブな指摘のほうが頭に残る。

たとえば、「21日か22日、お子さんのことで重大な問題が発覚。これまでに経験のない決断をすることに」とか「4日、ビジネスパートナーの背信行為に動揺します」みたいな具合で、まったく信心のない私でも、ほんのり気になる強さがあるのだった。

難しいよね、とそれを読んでわたしは思った。いいことばかり書いていたらサービスみたいに受け取られるし、百戦錬磨の占い愛好者&猛者たちにはぬるま湯すぎてつまらないだろう。でも、占いってそもそも心象に大きく関わるもので、検証も反証も不可能でありつつ、ある出来事にたいして無限の解釈が可能であるから、いわば、大方のことは成立してしまうわけなのよね。おまけに具体的なことがいくつか外れても、別の何かが当たったように感じてしまうと、今度はその印象のほうが、強く大きく残ってしまう。

だから、これはもう、当たるか当たらないかの問題ではなくて、その言葉たちを目に入れるか入れないか、のレベルなんじゃないかと思う。つまり、占いはよくも悪くも、言葉としての「呪い」として機能してしまうのだ。

であれば、やっぱりわたしは、できるだけポジティブな言い回しや表現で書かれたものが多くなればいいよなーと思う。そう、たとえばよくないことを告げるにしても、どう書くかで印象ってかなり変わる。多くの雑誌なんかの占いは、きっとそういう感じなんだろうけれどね。

確かなことなど何もない毎日で、少しの言葉にも気散じてしまうわたしたち。ふと目に入っても、読んだことを後悔しないような文面だといいのになあ、とそう思う。それじゃ物足らない人もいるのかもしれないけれど(めっちゃいそう)、そういう筋金入りのみなさまがたには本場の、ツウの、超絶本気の激辛占いに足を運んでいただいて、雑誌という不特定多数の読者が美容院などで手にとる媒体としては、ひとつ、マイルドにお願いできれば、なんてね、そんなことを思うんです。

文 : 川上未映子
イラスト : NOZOMI YUASA

川上未映子

1976年、大阪府生まれ。 2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』、短編集『ウィステリアと三人の女たち』など著書多数。『早稲田文学増刊 女性号』では責任編集を務めた。最新刊は長編『夏物語』。